Interview 生きる力


『生きる力』について、「自己肯定感」について、著名な方に登場していただき語っていただきます。独特の哲学や人生観をお持ちの方に、お願いする予定です。

また、『農家に訊く』『先生に訊く』『社長に訊く』『表現者に訊く』の各コンテンツでは、日本の食を支えてきた農家さん、学校の先生や保育士さん、一代で自分の会社を作るという偉業を成し遂げた社長さん、自分のすべてをさらけ出す表現者(ミュージシャン、クリエイター、ダンサーなど)に、自己肯定感や生きる力についてインタビューしたいと思います。

vol.1 天外伺朗さん


初回の「生きる力」インタビューは、『Roots』を立ち上げるきっかけのひとつでもある本『「生きる力」の強い子を育てる ~人生を切り拓く「たくましさ」を伸ばすために』の著者、天外伺朗さん。お会いした瞬間から、逆に質問されました。「なぜ、こんなことをやるの?」「生きる力ってのは、言葉では伝わらない。深層心理に関係するものだから」と、率直なご意見をいただきました。

「生きる力」は古い脳に突き動かされるもの

天外伺朗さん1
天外伺朗さんは元・ソニー上席常務。新卒社員の社会人としての力が年々下がっていることも懸念されていたそう

藤嶋:著書「『生きる力』の強い子を育てる」に書かれた「生きる力」の定義は、今もお変わりありませんか?


天外伺朗さん(以下敬称略):変わりませんね。これは、「ゆとり教育」実施の理論的ベースとなった中央教育審議会※(中教審)の答申とは別のもので、僕が考案したものです。ゆとり教育の失敗後、中教審は新しい「生きる力」について、「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」の3つが支えていると定義し直し、再び「学力偏重教育」へ舵を切っています。でも、「生きる力」を強化するためには、「ゆとり教育」以外に、いくらでも優れた方法論があるんですよ。


僕の定義の特徴は、人間の大脳のなかで、は虫類時代までに発達した「古い脳」のはたらきがコアになっている能力や資質のみを「生きる力」と読んでいること。理性、論理、知識などの大脳新皮質のはたらきだけで完結している能力は「生きる力」には含めていません。

※中央教育審議会は文部科学省に設置された審議会のこと

■「生きる力」の定義(著書「『生きる力』の強い子を育てる」より)

1.  大地をしっかりと二本の足で踏みしめて立つ力※
2.  自らを肯定する力
3.  自らを常に磨く力
4.  自己実現へ挑戦する力
5.  意志の力
6.  物事を前向きに解決する力
7.  大自然を畏敬する心
8.  全体の中で適切で調和的な立ち位置を確保する力
9.  人生を楽しむ心

10.  感受性、感性

11.  独創力
12.  決断力
13.  好奇心
14.  やる気
15.  人間的魅力
16.  積極性、行動力
17.  バイタリティー
18.  交渉力


※アレクサンダー・ローエンの「グラウディング」という概念、

自立心、外部の雑音や他人、世間の評価で信念がゆるがないなど

天外伺朗さんと二人(1)
「言葉で伝えるのはムリ」とスパッとおっしゃっていただき「体験が大切」と言い続けてきた自分の原点に引き戻された

藤嶋:なぜ「生きる力」や「教育」に興味を持たれたのでしょうか?

 

天外:きっかけは、ソニー在籍中に、脳科学者たちとともに、人工知能の研究をしたことです。教育を語るとき、遡れば、ソクラテスの「引き出す教育」に辿り着きます。英語のeducation(教育)の語源も、ラテン語のeducatio(引き出す)ですよね。

 

ソクラテスの弟子のプラトンも、最初はソクラテスの考えを引き継ぎ「引き出す教育」を推奨していましたが、後に「与える教育」へとシフトしています。それは、アテネがスパルタに滅ぼされていることと関係しており、プラトンは国家の危機によって意見を変えたものと思われます。このような国家の非常時には「与える教育」が取り入れられるんです。

 

プラトンが後年に推奨した「与える教育」は、国家権力や社会体制に貢献する人の育成を主眼としています。僕は、これを「国家主義教育学」と名づけているのですが、猪突猛進に、全員が同じ方向に進むためには有効です。日本の「知識偏重教育」も、これに該当します。子どもたちに「考えさせる」というよりは、教師が持っている知識を「与える」ことを重視するので。つまり「国家主義教育学」には、次のような両面性があります。

 

A.国家や支配者に忠実で、隣人に親切で、社会のルールやマナーをよく守り、

 勤勉で国の発展に献身的に貢献する人を育てる。

 

B.国に押しつけられた枠の中でしか発想できず、視野が狭く、自らの価値観を確立できず、

 個性や独創性に乏しく、ひとつの方向に猪突猛進する、洗脳された戦士を育てる。

 

日本では、明治維新からの「追いつけ追い越せ」の時代から「知識偏重教育」へと移行してきました。現在の「教育」は、ドイツの哲学者フィヒテの影響を受けています。フィヒテはカントの弟子で、ベルリン大学の創設者のひとりです。当時のドイツは、ナポレオンに占領されつつあったので、国家の危機に「国家主義教育学」の流れになっていったのでしょう。第二次世界大戦後のわずかな年数で、敗戦国の日本とドイツのGDPが戦勝国のイギリスとフランスを抜きましたが、これもフィヒテの教育が功を奏したといえます。

でも、今は、もっと独創的な人間が重要な時代へと変化しています。時代は、「引き出す教育」が必要な時期に来ているのです。「生きる力」を育む「引き出す教育」を、僕は「人間性教育学」と呼んでいます。

藤嶋:「生きる力」を支えている「自己肯定感」を高めるためにはどうすればいいのでしょうか?

 

天外:自己肯定感については、「バーストラウマ」「親子の葛藤」「死の恐怖」など、さまざまな内なるモンスターと関係しているので、一概には言えません。ただ、すべての内なるモンスターをなくすことが目的となってしまうと、自己肯定感どころか、いつまでも心の平穏は訪れません。大切なことは2つ。

 

・モンスターの支配から逃れること

・モンスターと共生していくこと

 

「内なるモンスターが一匹もいなくなるまでなくさなくては」と思わずに、死ぬまでつき合う覚悟をすることが重要です。ぐしゃぐしゃな自分を含めて、全部本当の自分なのですから。

天外伺朗さんと二人(2)
私の経歴について質問いただき「保育園を作んなさいよ」とおっしゃっていただき、遠い未来の夢でしたが、現実的に考えてみることに

藤嶋:「生きる力」を育むために家庭でできることはありますか?

 

天外:それは、具体的にひとつの方法を示すことはできませんね。簡単に伝えられるものではありませんので、ここで言葉にすることはやめておきます。「生きる力」について、文章で伝えることは非常に難しい。なぜなら、僕の定義する「生きる力」というものは「古い脳」に訴えるものだから。知識や情報は、大脳新皮質を活性化するだけで、「古い脳」には響きません。

 

とにかく「考えるより、感じろ」。体験を得たとしても、それを解釈する必要もありません。解釈も、大脳新皮質を活性化することです。例えば、畑を耕したのなら、その鍬(くわ)を入れたときの感触を味わう。

 

ただ、味わう。

 

それが重要です。そこから変わっていくものだと思いますよ。「生きる力」「行動する力」は「古い脳」のみに突き動かされるもの。こんな言葉の情報じゃ、本当は意味がないんです(笑)。

 

【プロフィール】

 本名・土井利忠。工学博士。東京工業大学電子工学科卒業後、42年間ソニーに勤務。CD、犬型ロボット「AIBO」などの開発を主導。音声対話能力のある2足歩行ロボット「QRIO」を開発した後、人工知能と脳科学を統合した新しい学問「インテリジェンス・ダイナミクス(動的知能学)」を提唱した。上席常務を経て、ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所(株)所長兼社長などを歴任。現在、ホロトロピック・ネットワークを主宰、医療改革、教育改革に携わり、企業経営者のためのセミナー「天外塾」を開催。著作『運命の法則』『経営者の運力』『「生きる力」の強い子を育てる~人生を切り拓く「たくましさ」を伸ばすために』『問題解決のための瞑想法』など多数。

【インタビュー後記】


創刊号で天外伺朗さんにインタビューさせていただいたことは、深く意味のあることでした。「なぜ、このような企画をしたのか?」という天外さんからの問いかけは、藤嶋自身が、本当の意味で「生きる力」を再度、思い起こすためのきっかけになりました。

 

この企画を始めた理由についてお伝えしたところ、「そんな大義名分だけじゃ続かないよ」と言われてしまい、正直な気持ち、企画ごと全否定されてクラクラしました(笑)。言われてみれば、「大義名分」そのものが、大脳新皮質のはたらきに繋がるものだから、ということだと思います。それに対して、「古い脳」と繋がる、「私が『Roots』を作りたい本能的な意図」は、いったい何なのか。それを再確認させていただけました。

 

インタビュー後、「保育園やりなさいよ」とおっしゃっていただき、この『Roots』の先にある、もうひとつの夢である「保育園を運営する」ということを、前倒しで具体的に考えていきたいと思いました。「言葉(情報)」はあくまでもきっかけ。「体験」して「感じる」ことの大切さから、ブレないようにしていきたいと思います。(藤嶋ひじり)

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