子どもと育ち合うおしごと


子どもに関わるあらゆる仕事の現場を紹介しながら、魅力的に働く方にご登場いただきます。

育つ環境がどこであろうと、どんな形であろうと「すべての子どもが幸せであるように」。

その根底に流れる子どもへの想いを伺いたいと思います。


vol.1 森のようちえん どろんこ園 @京都市左京区

2015年4月に「子ども・子育て支援新制度」の施行がスタートし、保育のスタイルもさまざまに変化を見せ始めています。増え続ける待機児童や加熱する保活問題などは、子育て世代かどうかに関わらず、大きな関心事の一つではないでしょうか。

 

初回は、既存の方法にとらわれずに新しい保育のカタチ『見守り保育』を実践する「森のようちえん どろんこ園」をご紹介します。

輪になって食べる
お昼ご飯は、通称「ごっこ広場」にて。 おうちから持参したおにぎりと園が用意する季節のスープで「いただきます」。

子どもたちの存在を丸ごと受け止める

そんな「どろんこ園」でありたい

先生がゆっくり見守る
何かコトが起こったときは、みんなで相談。 道先案内人の先生も前方からゆっくりと見守ります。

鳥のさえずり、川のせせらぎ、樹々のささやき……。

 

園舎のない幼稚園として活動する「森のようちえん どろんこ園」は、宝ヶ池公園の森が園庭です。

 

宝ヶ池を眼下に見据え、遠くに比叡山を臨む森に向けて、今日も子どもたちはリュックを背負って冒険に出かけます。

 

 

大切なことは森から学ぶ

温かいスープを飲む
本日のスープはワカメの味噌汁。 味噌は手作り。原料となる大豆を畑で収穫し、麹を混ぜるのも園児たち。

「仲間たちと森の中で自然の恩恵を受けながら過ごせば、子どもは必ず素晴らしく育ちますよ」。

 

日焼けした肌がまぶしい、どろんこ園代表の石川麻衣子さんは微笑みながら、そう語ります。ご自身も、12歳の息子、9歳の娘を育てる母でもあります。2011年4月に京都市左京区八瀬で園児4名を迎え開園。その後、2015年4月からは活動拠点を宝ヶ池公園に移し、新たにスタートしました。

 

どろんこ園では、天候に関係なく雨の日も風の日も、はたまた雪の日も一日じゅう森の中で過ごします。毎日の森での活動で発達するのは身体だけではなく、子ども同士がぶつかり合う中で学ぶ人間関係や五感をはじめとした感性を育むことはいうまでもないでしょう。

 

毎年の定員は15名ほど。少人数異年齢の集団の中では、相手との距離の取り方や気持ちを思いやる力も自ら獲得していくといいます。子どもたちが懸命に遊び回るさまは、まるで、きょうだいのよう。

 

また、山道での散策ではアスファルトの道路を歩く感覚とは全く違うことやビニールプールでの水遊びと川での遊びの異なる感触に気づくことができるのも、森で遊ぶ魅力の一つといえます。

 

そうした自然豊かな地で、子どもたちに生きるエネルギーを充電する保育を行う石川さんは、保育士の資格を持ち、長く保育関係の仕事に携わってこられたそう。しかし、関東のご出身ということもあり、かつては孤独な子育ても経験しました。

 

「ずっと保育士として働いてきたのですが、いざ自分が出産してみたら周りに頼れる人が誰もいないことに気づいたんです。そこで思い切って、育児サークルを自分で立ち上げてみたのがそもそもの始まりでした。その後は周りからの後押しもあり、気づいたらどろんこ園を運営していたという感じです」。

 

副代表の谷裕子さんとは、同い年の子どもを持つママ友としての付き合いから始まりましたが、いつしか唯一無二のパートナーとなり、現在に至ります。

子どもの「生きる力」と可能性を

信じて待つ

木や枝で作ったモニュメント
子どもたちみんなで作ったどろんこ園の旗印。 「ごっこ広場」での遊びをいつも見つめる大切な仲間のひとり。

「私たちが信じているのは、子どもたちが持っている『生きる力』なんです」。

 

力強く語る石川さん。どろんこ園は野外活動が中心のため、つねに危険と隣り合わせ。保育方針としても、規制をかけない、命令しないなど、行動のほとんどを子どもにゆだねることに重きを置いています。

 

取材当日もちょっとしたイザコザが発生しましたが、先生方はただ見守るだけ。しばらくすると、子ども同士で解決の糸口を見つけ仲直りしていました。

 

保育者や保護者は何か問題が起こりそうであれば、先回りして手や口を出しがち。そのあたり、保護者の方の理解がとても重要に違いありません。

 

「どろんこ園の保護者の方は、保育へのこだわりも持っておられるし、熱意も感じます。その分、園への期待度も高いわけで。それに応えるためにというわけではないけれど、私たちの保育スタイルに賛同してくださる方と一緒に子育てをしているという気持ちで活動しています」。

 

保護者と園それぞれが、かけがえのない命と日々向き合うことで、お互いの信頼感を高め合う。そこには少人数保育ならではの密接な連携があり、一人ひとりに目が届く環境のなか、地域ぐるみで子どもを育てていこうという姿勢が感じられます。

「見守り保育」は、

ありのままの自分を受け入れることから始まる

森の中の絵本タイム
日替わりで絵本の読み聞かせ。 本日は『くさや きのうた』。じっと聞き入る子どもたちの背中がたくましい。

子どもが困難にぶつかったとき、自ら育とうとする力を妨げず、それらを乗り越える力を引き出し伸ばすために、どろんこ園ではどんな対応をされているのでしょうか。

 

「教育理念とか難しいことを語らなくても、結局は、まず存在を丸ごと受けとめることに尽きると思うんです。でも、それは保育者が自分で自分を認められていないとできないことだと痛感しています」。

 

幸せの定義は人それぞれ。誰かが決めることではないし、自分が幸せだなと感じることが『自己肯定感』につながると続けます。

 

「子どもの思いをすべて受け入れたうえで、どうすれば子ども自身の力で解決できるかを一緒に考える。それがどろんこ園の基盤となる『見守り保育』の原点です」。

 

現在の保育スタイルに落ち着くまでには、いろいろと模索されてきた歴史もあるようです。

「いまは目の前の子どもたちと向き合い続けていくことが何よりも大事だと思えるようになりました。だからこそ、これが私たちの目指す保育スタイルだと自信をもって言えます」。

 

森のようちえんのように、子どもが育ち合いながら過ごせるような場所が、いろいろな地域に広がっていくことが理想だそうです。


■森のようちえん どろんこ園の一日

9:00

登園

  おはようの会(わらべうたや手遊びなどを「本日のお当番さん」が進行
   森や川へお散歩
11:30 お弁当(おにぎりと季節のスープ)
  森遊び・川遊び
13:30 おやつ(季節の果物・お団子・焼き芋など)
  絵本の読み聞かせ
  さようならの会(わらべうたや一日のふりかえりを「本日のお当番さん」が進行)
14:00 降園

素敵な笑顔の二人の先生
代表の石川麻衣子さん(右)、副代表の谷裕子さん(左)。 「幸せな仕事をさせてもらっている」と口を揃えておっしゃるお二人の言葉が胸に響く。
森のようちえん どろんこ園 ホームページ

http://doronkoen.jimdo.com/

  ブログ

http://doronkoen.exblog.jp/

  メール

doronko_en@yahoo.co.jp

森のようちえん全国ネットワーク  

http://morinoyouchien.org/

森のようちえんとは:1950年代中頃、デンマークの一人の母親が「子どもには幼いころから自然と触れ合う機会を与え、自然の中でのびのびと遊ばせたい」と、自分の子どもや近隣の子どもたちを連れて毎日森に出かけたのが始まり。現在、日本国内だけでも160園ほどが加盟している。


取材を終えて

「とにかく見守る、口や手を出さない」。徹底した保育スタイルに胸を打たれました。

筆者は一日体験入園をしながら取材をさせてもらいましたが、我が子があっちこっちにイタズラをするたびに声をかけてしまう始末。帰路の電車内で、ひとり反省会をしながら一日を思い起こしても、たしかに先生方は一度も手を出したり叱ったりしませんでした。

子どもにとって、幼児期は「自己肯定感」を育む大事な時期でもあります。

保育スタイルはさまざまあれど、子どもに何を伝えたいのか、何を残したいか……保育者や保護者、それぞれの立場から、新しい気づきに出会うことができる園だと感じました。

 

(取材・文・写真:Misuzu MATSUHISA)